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5. 心因性発熱患者はなぜストレスで高体温を生じるのか 

心因性発熱患者では、精神的ストレスが負荷されると著明な高体温(40℃近くまで)を生じることがあります。心因性発熱患者は、なぜ、ストレスによって、このような高体温を生じるのでしょうか。
 その理由を考える上で参考になる動物実験があります。慢性ストレスを受けた動物では、新奇なストレッサーに暴露された時に生じるストレス性高体温(stress-induced hyperthermia, SIH)の程度がストレスを受けていない動物より顕著になることが複数のストレスモデルで示されています3)4)

 慢性ストレスを受けた動物が顕著なSIHを生じるメカニズム:例えば4週間にわたって拘束ストレスを受けたラットとコントロールラットにノルアドレナリンを静脈内投与すると、両群ともに褐色脂肪組織の温度が上昇しますが、その程度は慢性ストレスラットの方が顕著です(同じ量のノルアドレナリンを投与してもコントロールラットでの体温上昇が0.2-0.3℃であるのに対して、慢性ストレスラットでは1℃近くになる)4)。SIHには褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生が重要な役割を果たしますが、褐色脂肪組織での熱産生は、交感神経の刺激によってミトコンドリア内に存在する脱共役タンパク質(uncoupling protein 1: UCP1)が活性化することで生じます。そこで両群の褐色脂肪組織を比較したところ、慢性ストレスラットでは、コントロールラットより褐色脂肪組織の量5)、および褐色脂肪組織中のUCP1量が多く、さらにUCP1の機能が亢進していました6)。つまり慢性的にストレスを受けたラットは、より熱産生しやすいような身体に変化(熱産生に必要な組織と蛋白量の増加に加えて、産熱機能が亢進)するようです。それが慢性ストレスを受けたラットが顕著なSIHを生じるようになる一因と考えられます(図)。


 このことから考えると、ストレスにより顕著な体温上昇を生じる心因性発熱患者では、(1)体温上昇をおこす引き金になる、直接の急性ストレスが存在すると同時に、(2)高体温を生じやすい下地を作る、間接的な慢性ストレスが存在し、両者によって顕著な高体温を生じやすくなるという可能性が考えられます。したがって心因性発熱を治療するときには、直接の誘因となるストレスに対する治療に加えて、高体温を生じやすい下地となっている慢性ストレス(学校、職場、家庭、人間関係など)に対するアプローチの両方が必要です。

 詳細は文献1)2)をご参照ください。       (2014年2月12日)


1) 岡孝和:心因性発熱のメカニズム.児心身誌22,295-305,2014.
2) Oka T et al.: Mechanisms of psychogenic fever. Advances in Neuroimmune Biology 3,3-17,2012.
3) Bhatnagar S, et al. J Neuroendocrinol.18,13-24,2006.
4) Nozu T, et al. Jpn J Physiol. 42,299-308,1992.
5) Kuroshima A,et al. Pflugers Arch.402,402-408,1984.
6) Gao B, et al. Jpn J Physiol. 53,205-213, 2003.

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