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(2)ストレス関連疾患に対するヨガの有用性に関するエビデンス

 ここでは、健康な人のストレス状態、およびストレス関連疾患(病態)に対するヨガの有効性を検討した臨床研究のうち、システマティックレビュー(SR)、ランダム化比較試験(RCT)に関する論文を紹介します。それぞれの論文の簡単なまとめを表にしていますが、クリックしていただくと、その論文の構造化抄録をご覧いただけます。
 医療関係者、ヨガ指導者の方々のお役にたてば幸いです。
 また構造化抄録作成に協力いただいた共同研究者の松下智子博士、九州大学医学部、鳥取大学医学部の学生の皆さん、日本ヨガ療法学会のヨガ指導者の皆様に厚くお礼申し上げます。

健康な人のストレス状態、、ストレス関連疾患に対するヨガの効果

SR:健康成人におけるストレスマネジメントに対するヨガの効果[1] 
 4つのRCT,と4つのCCTを検討している。結論:ヨガは健康な人のストレスを軽減するのに有用である。健康な人の不安、抑うつ気、自覚ストレスを軽減する効果がある。8つのうち6論文で、ヨガがストレスに対して有益であると報告している。ヨガは他のストレス軽減法(リラクセーション、認知行動療法、アフリカダンス)と同等に有効である。欠点:対象者が少ない論文が多く、介入期間が短い研究が多い(多くが4ケ月未満)。長期効果と生物学的機序の解明が不十分。注意点:ドロップアウト率が0%-35%とばらつきが大きい。

1)ストレス対策としての学校カリキュラムへの導入:

ヨガを学校カリキュラムとして導入し、その有用性を通常の体育と比較した研究が4つあった。小学生と高校生を対象としたものである。高校生を対象とした研究では、ヨガは通常の体育と比較して怒りの制御や疲労感や無気力、不安緊張感の改善に有効であり、精神的回復力にすぐれることがわかった。学校プログラムの中にストレスマネジメントやレジリエンスを増大させるための資源がない現状では、特に高校生の授業の中にヨガを導入する意義は大きいと考えられる。その一方で、小学6年生を対象とした研究では、ヨガによってストレス反応性の低下は見られず、ヨガ群の生徒の一部は、ヨガよりも通常の体育(サッカーやバスケットボール)をやりたがっていた。小学生では、ヨガに対する動機づけが難しく、ゲームとしての要素、楽しみの要素がないとヨガの導入は難しいであろう。また小学4,5年生の女児を対象とした研究では、ヨガ(マインドフルヨガ)を練習した者の方がコントロール群より、より多くの自覚ストレスを報告した。したがって小学生に対しては、ヨガは高校生や成人と同様の効果を期待できない可能性が高い。小学生に対するヨガの導入は慎重に行なった方がよい。

2)就労者のストレス対策としてのヨガ導入:

就労者のストレス対策は、有効性が示されたものであるだけでなく、職場で確実に実行可能なものでなければ意味がない。職場ストレスに対してヨガおよびヨガ瞑想が有効であるとする複数の報告がある。就労者のストレス対策としてヨガを導入した研究では、昼休み前後に週に1回(1時間)のヨガ(ヴィニヨガ)を12週行なうと、自覚ストレスが軽減し、睡眠と自律神経機能の改善が得られた。他のプログラムでも週に1回、6週から4ヶ月で、同様の効果を挙げている。週に1時間、数ヶ月のプログラムであれば日本の企業でも十分実施可能であり、ストレスの多い職場では、ストレス対策としてヨガプログラムを取り入れる価値があると思われる。ただし、これらの研究の参加者は圧倒的に女性が多い(70-85%)。したがってヨガをストレスマネージメントの一環として取り入れる際には、(1)女性に対しては有用であっても、男性に対して有効かどうか(まず参加を希望するかどうか)は不明である点、(2)ヨガを取り入れたプログラムは不安、抑うつ、疲労/消耗、不眠などに対しては改善が期待できる反面、怒りの改善効果に乏しいと言う複数の報告がある点に注意が必要である。 

3)高齢者に対するヨガ

高齢者ではヨガはストレス軽減法と言うよりも、全般的な生活の質(睡眠、身体的、精神的健康度)を向上させ、運動能力(バランス維持、柔軟性)を向上させる方法として有用なようである。つまりヨガが運動療法としての意味を持つ点が、他の世代でのヨガの意義と異なる。その一方で、現時点では、ヨガが認知機能に影響を与えるという積極的な知見は乏しい。
高齢者は若者に比べ、筋力、柔軟性、平衡感覚など様々な身体能力が低下している。そのため有害事象の項目で紹介した通り、ヨガによる有害事象(無理なストレッチによる筋骨格系の痛み、バランス維持を求めるポーズでの転倒)が生じやすい点に注意が必要である。そのため、紹介した2つの論文では、指導方法を高齢者用に工夫したプログラムとなっている。

4)ストレス状態、ストレス関連疾患に対する治療法として:

強いストレスを受け、臨床症状を呈している人に対してヨガはどれほど有効だろうか。6つの論文からは、ヨガはストレス性疾患患者の特に不安と睡眠障害を改善するのに有効であることがわかる。ただし、臨床群(病院にかからないといけない、疾患群)に対するヨガの位置づけを考える時には、以下の点に気をつけていただきたい。
(1)Kohn 2013の研究では、医学的な治療にヨガを併用した群は、医学的治療単独群よりも有用性が高かったという報告であり、ヨガ単独による治療が有用であったという報告ではないこと。(2)この報告のみならず、患者群を対象とした研究の多くは、疾患用に工夫されたプログラムを用いている。健康な人を対象として行なわれているヨガ教室でのヨガプログラムで同じ効果が得られるとは限らない(一般化が難しい)こと。(3)このように工夫され、有効なプログラムにおいても、ヨガを習った患者の28%が不快感を感じていること。

5)うつ状態/うつ病

SR1)Piklington K, 2005. 1990-2004年の5RCTを検討[2]。
 全体的に、ヨガはうつ病に対して有益性を秘めている。介入方法、重症度、方法論のばらつきがあり、この結論は注意深く解釈されるべき。
SR2)Balasubramaniam M, 2013. 2004-2011年の4RCTを検討[3]。
 ヨガはうつ病に対して、急性の有益性が潜在することを支持するエビデンスがある。小規模研究が多く追試されていないという限界がある。バイオマーカーや脳機能画像研究により標準的な薬物療法、心理療法との比較が可能になろう。長期効果に関する検討も必要である。  

 軽度から中等度からうつ状態の成人に対して、ヨガは有効のようである。ただし、うつ病患者に対する研究は限られており、ヨガのうつ病に対する有効性に対しては解決すべき問題が多い。現時点で、ほとんどの研究は短期の介入試験であり、長期効果、再発予防効果などについては不明である。

6)不安/不安障害

SR:Kirkwood G, 2005. 1997-1999年の8RCTを検討 [4]
これらまでの研究は方法論や診断に不適切な部分がおおいため、ヨガは不安と不安障害に対して有効とは結論することはできないが、強迫性障害に対しては有望である。
問題点:臨床的な不安に対する効果の研究がほとんどない。精神疾患に対する安全性と禁忌に関する情報が不足している。
注意点:瞑想は精神疾患やパーソナリティ障害の既往のある患者、現在活動性の精神疾患にかかっている者では避けるべきである。
ヨガプログラムを推薦する前に、動機づけとコンプライアンスを検討しなければならない。ヨガには多くのプログラムがある。あるプログラムは、他のプログラムより不安障害患者には適しているかもしれない。注意深くプログラムを選ぶことが必要。
臨床心理士である等、メンタルヘルスのプロであるヨガ指導者にかかることが望ましい。
コンプライアンスに関して:“競わない“ことを強調すべき。

7)不眠/睡眠障害

SR: Balasubramaniam M, 2013. 2004-2011年の4RCTを検討[3]。  
ヨガは不眠症に対して、増強療法として考慮されても良い。しかしながら低レベルの研究による評価であり、もっと質の高い研究の集積が望まれる。

SRで検討されている3つのRCTを紹介する。まだ本格的な研究が少なく、自覚的睡眠の改善が睡眠脳波の変化として反映されない等の問題点が残る。睡眠薬の使用頻度が減ったと言う報告があり、追試が望まれる。

8)身体疾患患者のストレス、抑うつ、不安

ヨガは乳がん患者、むずむず脚症候群患者での自覚ストレスを改善するという報告がある。

9)がん

乳がん患者、乳がん生存者に対するヨガの効果に関する研究は、ヨガの医学的効果についての論文の中で、最も多いテーマのひとつである。我々がまとめた構造化抄録の一部を紹介するが、いずれその他の論文についても紹介する予定である。筆者が九州がんセンターでヨガの話をした時、医療関係者から心配の声があがったのが、転移、病的骨折についてであった。専門家であれば当然の心配である。このように解決すべき問題も多いが、ヨガは乳がん患者の更年期症状、生活の質を改善すると言う報告は枚挙にいとまがない。我が国においても、がん専門医による検討をお願いしたい。

10)疼痛性疾患

文献
1 Chong CS, Tsunaka M, Tsang HW, Chan EP, Cheung WM: Effects of yoga on stress management in healthy adults: A systematic review. Altern Ther Health Med 2011;17:32-38.
2 Pilkington K, Kirkwood G, Rampes H, Richardson J: Yoga for depression: The research evidence. J Affect Disord 2005;89:13-24.
3 Balasubramaniam M, Telles S, Doraiswamy PM: Yoga on our minds: A systematic review of yoga for neuropsychiatric disorders. Front Psychiatry 2012;3:117.
4 Kirkwood G, Rampes H, Tuffrey V, Richardson J, Pilkington K: Yoga for anxiety: A systematic review of the research evidence. Br J Sports Med 2005;39:884-891.

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