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(6)慢性疲労症候群に対するアイソメトリックヨガの安全性と有用性

【研究の背景と目的】

 

 慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome, CFS)は原因不明の疲労が6ヶ月以上続く病気で、現在、治療法は限られています。また、これまで知られている治療法を行なっても、十分な改善が得られない患者もいます。
 そこで通常の治療を6ヶ月以上行なっても十分な改善のみられないCFS患者に対する治療法として、アイソメトリックヨガが有用で安全かという点について、ランダム化比較試験で検討しました。
 今回、ヨガをとりあげた理由は、CFSは心理的ストレスで増悪しますが、ヨガは生体のストレス反応に対して抑制的に作用することが明らかになっていること、ヨガは健常人やがん患者において疲労感を改善すると言う報告があること、がん患者の疲労と、CFS患者の疲労にはいくつかの共通点が示唆されていること、などの理由からです。

【方法】

 通常治療で十分な改善が得られなかったCFS患者で、30分間の座位を保つことができ、研究の趣旨を理解し同意の得られた30名を、対照群(通常治療を行なう15名)とヨガ群(通常治療にアイソメトリックヨガを併用する15名)に分けました。そして対照群では、これまでの治療を継続しました。ヨガ群では、これまでの治療に加えて、2-3週に1回、ヨガ指導者によるアイソメトリックヨガ(20分)の個人指導を受け、自宅ではDVDと練習記録表を用いて、そのヨガプログラムを8週間、練習してもらいました。 そして疲労感の程度を比較しました。

【結果】

(1)安全性:1名、初回のヨガ個人指導終了後に気分不良を訴えましたが、2回目以降の練習では、そのようなことはありませんでした。2名の患者は、初回練習時、練習に意識を集中しないといけなかったので疲れたと述べましたが、練習手順がわかってくると、練習による疲労感は訴えなくなりました。自宅練習中、2名が、目を閉じて行なったり、体調の悪い時に練習すると頭がふわふわすると訴えましたが、目を開けて練習したり、体調のよいときには、このような訴えはありませんでした。他の参加者では全セッションにおいて有害事象はみられませんでした。
(2)有用性(短期効果):ヨガをはじめて8週後に、POMSという心理テストを用いて疲労感と活気の状態をあらわす点数を、ヨガ練習前後で比較したところ、疲労得点は低下(21.7±7.8点→14.2±7.0点, p<0.01)し、活気得点が増加(18.1±6.8点→22.5±7.1点, p<0.05)しました。内省ではヨガ中、「身体がポカポカして、痛みがやわらぐ」、「無心になれる」、ヨガをはじめるようになって「朝、頑張らなくても自然に起きられるようになった」などの感想が聞かれました。
(3)有用性(長期効果):チャルダー疲労スケールを用いて疲労の度合いを調べたところ、介入期間(8週間)の前後で、対照群では疲労スケール得点に有意な変化はみられませんでした(26.7±7.0点→26.1±6.3点)が、ヨガ群では低下しました(26.8±5.4点→21.6±7.0点, p<0.05)。また、生活の質に及ぼす影響をSF−8を用いて比較したところ、ヨガを行なうと身体的な痛みのために生活に支障をきたす度合いがへることがわかりました。

(図1)

【考察および結論】

 今回の研究で、通常の治療を6ヶ月以上行なっても十分な効果が得られなかったCFS患者で、30分以上座っていることが可能な程度の疲労感をもつ患者が、通常の治療にアイソメトリックヨガをあわせて行なうと、通常治療だけを行なうより、疲労感は改善し、痛みも軽減することがわかりました。
 今回の成果は、CFSに対して新たな治療法の選択肢をRCTによって示すことができたという点では特筆すべきで喜ばしいものです。
 しかし、今回の研究には、以下の点のような限界もあります。
1)今回は、まず、CFS患者がヨガを練習することが可能か、症状が悪化することはないのか、という点に注意しながらの研究でしたので、観察期間が2か月と短く、長期的な効果、有害事象については、まだわからないという点、
2)CFSという病気の特長と病院内で練習すると言うことを念頭においた上で、研究を開始する前に、ヨガの先生たちと入念な打ち合わせをしました。その結果、今回論文で紹介しているようなCFS用のプログラム(座って行なう20分のアイソメトリックヨガ)を練習してもらうことにしました。そのため、今回の結果を、必ずしもヨガ教室で行なっているヨガにおきかえて考えることはできません。また、対象患者の重症度も一定にした上で行なっています。全ての重症度のCFS患者にアイソメトリックヨガが有効かどうかという点についても、まだ不明です。
 今後は、今回の研究成果をもとに、疲労改善の機序を検討してゆくと同時に、より多くのCFS患者が安全に有効にヨガを練習できる様、詳しい研究を行なってゆく予定です。

* なお、本研究は、九州大学病院心療内科外来を受診したCFS患者様で、研究の趣旨を理解していただき、同意の得られた成人の方を対象として、2012-2014年の間に行なわれました。現時点では、まだ外来での通常治療として行なわれているわけではありません。ご了承ください。

               
2014年12月24日

詳細は下記論文をご覧下さい。
Oka T et al., Isometric yoga improves the fatigue and pain of patients with chronic fatigue syndrome who are resistant to conventional therapy: a randomized, controlled trial. BIopsychosoc Med 2014, 14:27.

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