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4. 慢性疲労症候群患者にみられる顕著なストレス性高体温反応

 慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome, CFS)患者さんはしばしば微熱を訴えます。 しかしながらCFSでなぜ微熱がでるのかという点については明らかではありません。 私は一部のCFS患者さんの微熱の成因、増悪には、心理的ストレスが関与しているのではないかと考えています。 その理由は、心理的ストレスによって顕著な体温上昇を示す患者さんがいらっしゃることと、 ストレス性疾患に対する治療(心因性発熱に対する治療)でよくなる患者さんがいらっしゃるからです。

ストレス面接時の顕著な体温上昇反応

 CFS患者さんのなかには、ストレス状況で体温が上がることを自覚していらっしゃる人もいます。 そこで、ストレスによってどれだけ体温が上がるのか、またそれはなぜなのかという点について、 医療従事者のCFS患者さんに協力していただいて調べてみました。
 図は20歳代のCFS患者さんに心理面接を行なったときの腋窩温と鼓膜温の変化を示したものです。 CFSになってつらかったことについて1時間、お話ししてもらったところ、腋窩温は、インタビュー開始前は 37.2℃でしたが、インタビュー終了直後にはなんと38.2℃へと1.0℃上昇しました! (インタビュー終了後はすみやかに低下し、1時間後には36.7℃になりました)(図1)。


(図1)腋窩温と鼓膜温の変化

考えられるメカニズム

 では、このような顕著な体温上昇がなぜ生じるのかと言う点について、インタビュー前後で採血をして調べさせていただきました。 その結果、発熱をおこすサイトカインの血中レベルはインタビュー前後で変化がありませんでした。 その代わり、交感神経機能が亢進し、それが体温上昇を引き起こしたと考えられる所見が得られました。 興味深いことに、ストレス性の変化は、鼓膜温よりも腋窩温の方が顕著に現れました。 心理的ストレス→交感神経機能の亢進→褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生がストレス性高体温反応の主要な要因であるとすれば、 褐色脂肪組織の体内分布を考えると、この結果はうなずけます。

微熱を伴うCFS患者さんでは、ストレス性体温上昇反応が亢進?

 CFS患者では、なぜこのような顕著な高体温反応が生じるのでしょうか。 本HPでも紹介している通り、ストレス性高体温反応は恒温動物に共通してみられる生理的な反応です。 ところがこの患者さんでは、一時間、話をしただけで(患者さんにとってはつらい内容でしたが)38.2℃まで、 1℃も腋窩温が上昇したのです。この現象を理解するために参考になる動物実験があります。 例えば、4週間、繰り返し拘束ストレスを受けた後のラットでは、ストレスを受けたことのないコントロールラットに比べて、 ノルアドレナリン誘発性の核心温上昇、褐色脂肪組織の温度上昇、酸素消費量の増大反応が顕著になったという研究があります (Nozu T et al., 1992)。 この結果は、繰り返しストレスに暴露されると、交感神経が刺激されたときの産熱反応が増大することを示しています。 したがってCFS患者の中には、発症に先行して慢性ストレス状況が続くことによって、急性の情動的な出来事に暴露された時に、 健常人よりも顕著な高体温反応を生じる人がいると考えられます。

では、心因性発熱に対する治療が有効ではないか?

 それでは、ストレスによって微熱がでているCFS患者さんにも、私がこれまで行なってきた心因性発熱に対する治療が 有効な人がいらっしゃるのではないかと考え、治療したところ、良好な経過が得られました。
 入院、心理面接、薬物療法に加えて、患者さんには「心因性発熱という病気について」で紹介した点に気をつけていただきました。 このような心因性発熱に対する治療は、微熱の発症、増悪に現実的なストレスが関与する、一部のCFS患者さんに有効性を発揮することがあります (ウイルス感染の徴候が強いCFS患者さんや、精神疾患を合併しているCFS患者さんに対しては限界があるようです)。

慢性疲労症候群患者さんを診療する先生へ

 このような現象の詳細と、治療の一部については論文にしておりますので、参考にしていただき、 診療に役立てていただければと思います(2013年5月22日)。


1) 岡孝和:慢性疲労症候群患者にみられるストレス性高体温症とその治療.日本疲労学会誌2012;7(2):42-48.
2) 岡孝和:心因性発熱の治療.心身医52(9),845-856,2012.
3) Oka T, Kanemitsu Y, Sudo N, wt al.: Psychological stress contributed to the development of low-grade fever in a patient with chronic fatigue syndrome: A case report. Biopsychosocial Med. 2013;7:7.

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