> トップページ - 3. 心身医学

1. 失体感症 <English

 失体感症とは心身症患者にみられる特徴として,1979年に九州大学心療内科初代教授、池見酉次郎により提唱された概念です。池見は1977年、Sifneosのalexithymiaの概念を我が国に紹介しましたが、その際、心身症患者では情動のみならず身体感覚の気づきも低下しているとし、後に身体感覚の低下状態を失体感症と呼ぶことを提唱したました。しかしながら、その定義は必ずしも明確でなかったため、心身医学に携わる人たちが失体感症に関する研究を行うことを困難にしています。そこで、まず私たちは池見による著書を詳細に分析し、失体感症を構成する要素を整理しました。
 その結果、失体感症において気づきが鈍麻している感覚には、(1)空腹感や眠気などの,生体の恒常性を維持するために必要な感覚、(2)疲労感などの外部環境への適応過程で生じる警告信号しての感覚、そして(3)身体疾患に伴う自覚症状、が挙げられました。この中には現在、内受容(interoception)として知られている感覚が多く含まれていました。また池見は、失体感症では、これらの感覚に対する気づきが鈍麻しているだけでなく、それを表現したり、適切に反応することも困難であるとしました。また自己破壊的なライフスタイルを送ったり,自然の変化に対する感受性や自然に接する機会も低下するとしました。詳細は関連文献1、2をご参照ください。
 現在私たちは、これらの要因を網羅した、失体感症の評価尺度の作成、標準化の作業を行っています。評価尺度が出来上がった際には、心身症、それぞれの疾患で失体感症がどのような意味を持つのか、という研究を行なう予定です。各科の先生との連携、共同研究が必要となります。興味のある先生は、ぜひ岡までご連絡ください。

関連文献

1)岡孝和,松下智子,有村達之:「失体感症」概念の成り立ちと,その特徴に関する考察. 心身医学51,978-985,2011.
2)松下智子, 有村 達之, 岡孝和:失体感症に関する研究の動向と今後の課題. 心身医学51, 376-83,2011.

inserted by FC2 system