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(3)ヨガによって生じる有害事象

 ストレスを抱えている健康な人、ストレス関連疾患のかかっている患者さんが、安心してヨガを行なうためには、ヨガがストレスに対してどのような効果があるかということを明らかにするだけではなく、ヨガによってどのような有害事象がおこりうるのか、つまりヨガは安全かどうか、ということを調べておくことも大切です。
 そこで、私たち(九州大学基幹教育院 学習・健康支援開発部 松下智子博士との共同研究)は、約2500名のヨガ教室参加者と、約270人のヨガ指導者を対象として、日本のヨガ教室でおこりうる有害事象の頻度と内容について調査しました。

(1)ヨガ教室でおこりうる有害事象

 有害事象を「ヨガ実習中に生じる好ましくない症状、反応」とすると、ヨガ教室受講中に何らかの有害事象を訴えた受講者の割合は27%でした。

3%以上の頻度でみられた症状(筋肉痛、関節痛、ふらつき、咳こみ) 1%以上の頻度でみられた症状(筋肉がつる、身体の一部がしびれる、ぴくぴく動く、気が遠くなる、鼻が詰まる、鼻水が出る、頭が重くなる、疲れてぐったりする)

 多くは、症状があってもヨガの受講には影響しない軽度のものでしたが、有害事象を訴えた人の約2%は、目の前が暗くなる、咳、腹痛、筋肉痛、関節痛、からだのふらつきなどの症状のためにヨガ実習を中止しなければならなりませんでした。

(2)ヨガ指導者がこれまでに経験したことのある有害事象

 ヨガ指導者(平均指導歴約10年)が、これまでの指導の中で経験した重症の有害事象(医療機関を受診、もしくは救急搬送しなければならなかった)としては、頻度は多くはありませんが、くも膜下出血、股関節亜脱臼、バランスをくずし転倒打撲、骨折、アキレス腱断裂、半月板損傷、血圧上昇による気分不良、めまい、過換気および不安発作の誘発、などがありました。

(3)有害事象を少なくするために知っておいてもらいたいこと

 ヨガ教室で発生する有害事象の内容については、私たちの想像できる範囲内のものでした。この調査では、どのような人が有害事象を生じやすいかと言う点についても検討しました。そこでわかったことをまとめますと、

1)今回のヨガ受講者の平均年齢は59歳で、持病がある人が約半数でした。これは驚きでした。今や、ヨガ教室は若い健康な女性が通うところではないようです。持病がある人は健康な人と同じ練習をしていても有害事象が生じやすいと考えられます。実際、調べてみると何らかの持病を持っている人は、持病に関連した有害事象を訴えるリスクが高くなると言う結果が得られました。例:整形外科疾患を持っている人は筋肉痛を生じるリスクが高い、呼吸器系の疾患を持っている人は咳を生じるリスクが高い、など。
 このことから、持病を持っている人は(1)医師に自分がヨガを習っている事を告げ、病気の性質上、どのような注意が必要かを、あらかじめ聞いておくこと、(2)ヨガ指導者に、病名と、医師からの注意点を伝えておくことが必要と考えられます.また、ヨガ指導者は、ヨガ受講者の健康状態(病名)と注意点を把握した上で指導にあたることが望ましい(例えば、高血圧の人には、倒立のポーズを勧めない、がん患者やステロイド使用者には、病的骨折を防ぐため、強いストレッチを勧めないなど)と考えられます。  

2)また受講者の取り組み方や、その日の体調も有害事象の発生に大きく影響を与えていることがわかりました。特に、「その日のヨガの受講が精神的にきつい」と感じた人は、そうでない人より6倍、有害事象を生じていました。指導者への調査でも、受講者が有害事象を生じた理由として、「体調を無視していた」、「頑張りすぎていた」、「無理をしていた」などが最も多く挙げられました。ヨガによって有害事象を生じないようにするためには、自分の体調とよく相談し、とくに精神的につらいときは無理をしない、がんばりすぎないことが大切です。

(4)ストレス関連疾患を抱えている人がヨガをするときに特に注意すべき点

 ストレス関連疾患、精神疾患患者がヨガを実習する場合には、異なる観点からの注意が必要です。ストレス関連疾患/愁訴を訴える人に対してヨガの効果を検討した研究報告では、ヨガ参加者18名中5名(28%)がヨガに関連して不快な事象を述べています。その内訳はヨガプログラムによって自分の内面的な感情に触れることによって生じる緊張感、自分で自分自身を管理することへの負担感などでした。ヨガが自らの内面と向き合うセルフコントロール法であることに由来する事象です。精神疾患患者の場合、ヨガによって不安発作が惹起されることもあり得ます。PTSD患者では、目を閉じることや、指導者が背後にいたりするだけでも強い不安、緊張感を生じる可能性があります。呼吸法によって過換気発作を誘発することもありえます。ストレス関連疾患を抱えた人のヨガの導入の適否や時期、内容については、患者の自我強度や病気の性質、治療(特に心理療法の)段階を考慮した上で決定すべきです。それを患者自身や、ヨガ指導者だけで判断することは難しいと思われます。ヨガを希望するストレス関連疾患患者、担当医師、ヨガ指導者が密接に連携をとることが重要です。 (2014年3月8日)

発表論文
Matsushita T and Oka T: A large-scale survey of adverse events experienced in yoga classes. BioPsychoSocial Medicine 2015,9:9.

ここで紹介した研究は平成24年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)(H24-医療-一般-025)の補助(2012-2013年)を受けて行なわれた「ストレス関連疾患に対する統合医療の有用性と科学的根拠の確立に関する研究」(主任研究者 岡孝和)の成果の一部を紹介したものです。

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